キッチン王国 霜の魔女と氷の迷宮
更新日:2025年07月21日 その他コラム
【おはなし】
キッチン王国の冷凍庫の奥。そこには、誰も近づかない「霜の谷」があった。
その中心には、伝説の「氷の迷宮」と呼ばれる場所があり、長い間、誰も足を踏み入れたことがない。
なぜなら、そこには恐ろしい力を持つといわれる「霜の魔女」が住んでいるからだ。
ある日、メルは冷蔵室の奥で、凍った瓶の中から一枚の古びた巻物を見つけた。
それは、「氷の迷宮」に隠された“かつての魔法の源”について書かれていた。
「この力があれば、キッチン王国のエネルギー源を守れるかもしれない!」
メルは目を輝かせ、そっと巻物をしまい込んだ。
翌朝、彼は仲間たちにこう宣言する。
「僕、行ってくるよ。霜の谷へ」
「無理だよ!霜の魔女に凍らされるって聞いたよ!」と、ミントの葉のミンティが叫ぶ。
「きっと大丈夫さ。僕には、このスプーンの杖があるから」
そう言って、メルはいつも携えている古い銀のスプーンを握りしめた。
*
霜の谷へと進むにつれて、空気は凍るように冷たくなり、足元はつるつると滑る氷に変わっていった。
息を吐くたびに白くなり、メルの体毛には霜が付きはじめた。
ようやく氷の迷宮の入り口にたどり着いたとき、氷の柱が突然動き出し、メルを包囲した。
「ここを通るには、知恵と勇気が必要だよ」
どこからともなく声が響いた。
すると、迷宮の入口に一枚の氷の札が現れた。そこにはこう書かれていた。
「動かぬものを動かすには、何を使う?」
メルはしばらく考えた。
「……心、かな」
そうつぶやいたとき、氷の札がふわりと消え、迷宮の扉が静かに開いた。
*
迷宮の中は複雑で、光をほとんど通さない氷の壁に囲まれていた。
冷気の魔物たちがあちこちから飛び出し、メルの行く手を阻む。
しかしメルは、スプーンの杖からほのかな温もりの光を放ち、少しずつ進んでいった。
そして——
迷宮の最奥に、玉座に座る“霜の魔女”が現れた。
「よくぞここまで来たね、小さな洗剤の子よ。だが、ここから先は凍りの試練が待っている」
「魔女さん、あなたの持つ力は、キッチン王国の未来に必要なんだ。ぼくに分けてくれない?」
霜の魔女はしばし黙ってメルを見つめた。
その目には、かつて希望に燃えた日々の光が宿っていた。
「……昔、私も誰かのために力を使いたかった。でも裏切られ、凍てつくような悲しみに閉じこもってしまったの」
「じゃあ、もう一度、信じてみてよ」
メルは一歩、前に出た。
その瞬間、魔女の体から氷が溶け出し、迷宮全体に優しい光が広がった。
「君には、不思議な“あたたかさ”があるのね」
魔女はほほえみ、小さな氷の結晶をメルの手に渡した。
それは、エネルギー源「フロストクリスタル」。王国を長く守る光の力だ。
*
こうしてメルは、氷の迷宮から光と希望を持ち帰った。
キッチン王国の住民たちは拍手で迎え、魔女も迷宮を離れ、王国の一員として新たな人生を歩み始めた。
そして、メルの冒険は王国中で語り継がれることになる。